僕たちは、人生の1/3を占める睡眠について、何も知らない。 【読書メモ】
『Why We Sleep』 by Matthew Walker
カリフォルニア大学バークレー校の神経科学、心理学の教授であるMatthew Walker氏による、タイトル通りの睡眠に関する本。
すごく面白かった。途中気になったところに折り目を付けながら読んだので、その部分をまとめつつご紹介。本の前半部分は折り目を付けていなかったのでまた読み直してまとめなおすかも。付録の、12の睡眠のための習慣も面白かったので、今度まとめようと思います。
Why We Sleep: The New Science of Sleep and Dreams
- 作者: Matthew Walker
- 出版社/メーカー: Penguin
- 発売日: 2018/01/04
- メディア: ペーパーバック
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Part 1 This Thing Called Sleep
Chapter 1 To sleep
Chapter 2 Caffeine, Jet Lag, Melatonin: Losing and Gaining Control of Your Sleep Rhythm
Chapter 3 Defining and Generating Sleep: Time Dilation and What We Learned from a Baby in 1952
Chapter 4 Ape Beds, Dinosaurs, and Napping with Half a Brain: Who sleeps, How Do We Sleep, and How Much
Chapter 5 Changes in Sleep Across the Life Span
Part 2 Why Should You Sleep
Chapter 6 Your Mother and Shakespeare Knew: The Benefits of Sleep for the Brain
Chapter 7 Too Extreme for the Guinness Book of World Records: Sleep Deprivation and the Brain
Chapter 8 Cancer, Heart Attacks, and a Shorter Life: Sleep Deprivation and the Body
Part 3 How and Why We Dream
Chapter 9 Routinely Psychotic: REM-Sleep Dreaming
Chapter 10 Dreaming as Overnight Therapy
Chapter 11 Dream Creativity and Dream Control
Part 4 From Sleeping Pills to Society Transformed
Chapter 12 Things That Do Bump in the Night: Sleep Disorders and Death Caused by No Sleep
Chapter 13 iPads, Factory Whistles, and Nightcaps: What's Stopping You from Sleeping?
Chapter 14 Hurting and Helping Your Sleep: Pills vs Therapy
Chapter 15 Sleep and Society: What's Google and NASA Are Doing Right
Chapter 16 A New Vision for Sleep in the Twenty-First Century
Conclusion: To Sleep or Not to Sleep
Appendix: Twelve Tips for Healthy Sleep
ノンレム睡眠とレム睡眠が交互に訪れる理由
1つの有力な説は、脳の莫大な記憶の整理するためのもの。ノンレム睡眠は、脳の重要でない古い記憶を間引く役割を持ち、レム睡眠は新しい記憶をつなげ、強化する役割がある。このように考えると、ノンレム睡眠とレム睡眠の一連のサイクルは、はじめにノンレム睡眠でいらない記憶を消去し、次にレム睡眠でそのスペースに新しい記憶を作成する、というアクションの繰り返しであると理解できる。
とすれば、睡眠時間を考えなしに減らしたり、増やしたりすることは、脳の回復に大きな変化をもたらす可能性がある。すなわち、ノンレム睡眠とレム睡眠のバランスがうまく取れなければ、効果的な睡眠が取れない可能性があるということだ。むやみに睡眠時間を増やせばよいということではない。その逆も然りで、少しの睡眠時間の減少が睡眠の質に大きな影響を及ぼす可能性がある。
昼寝をしなければ、命が短くなる
本来人間は、夜の数時間の長い睡眠と、昼の数十分の短い睡眠を1サイクルの睡眠としていた。
ギリシャには、シエスタという昼寝の習慣があることをご存知だろうか。産業の発展により、現在は都市部ではほとんど見られない習慣となってしまっているが。ハーバード大が23000人のギリシャ人に対して行った調査によれば、シエスタの習慣を残している人に比べ、シエスタの習慣を失ってしまった人は37%もの心臓病のリスクの増加があったという。働く女性はとりわけその影響が大きく、昼寝の習慣を維持している人に比べ、そのリスクは優に60%を超えたという。
逆に、ギリシャのIkariaという島では、今でもシエスタの習慣は固く守られており、Ikariaに住む男性はアメリカの男性よりも4倍近く高い可能性で90歳まで生きることが分かっている。
このような調査から、我々の寿命に昼寝が大きく関わっていることは明らかである。昼寝は、単なる快適なものではなく、DNAレベルで我々にコードされている習慣なのだ。
睡眠の欲求は、2つの要素で決まる
睡眠の欲求は、睡眠からの経過時間と、概日周期で決まる。すなわち、睡眠の欠乏によって徐々に蓄積する”睡眠負債”と、概日周期の差が、睡眠欲求として表れる。概日周期とは、約24時間の、生体内に備わる内在的な周期のことである。人間の概日周期は24時間より少し長いことが知られている。
(Macbookのトラックパッドで描いた。人差し指が攣りそうだった。ほめてください。)
寝る前に電子機器を使うのは、夜の到来を3時間遅らせるのに等しい
iPadと紙の本を用いて、健康的な大人に対して2週間の間ある実験が行われた。1週目は、被験者は寝る前に紙の本を数時間読んでから眠りについた。2週目、被験者は寝る前に数時間の間iPadで本を読んだりしてから眠りについた。その結果、iPadを寝る前に使用した場合、メラトニンの分泌量が50%以上も抑制されることが分かった。すなわち、紙の本を読む場合に比べて夜の到来が3時間ほど遅くなったということだ。
ブルーライトが睡眠に大きな影響を与える理由
その答えは、我々の遠い遠い祖先にまで遡る。人間も含め、地上のすべての生物は、海から生まれている。海の色が青いのは、赤色や黄色などの暖色系の長い波長を持つ光線が海に吸収され、結果として青色の光が水中に残るためである。古くから海の生物は青い光を受け続けているために、青色の光に反応しやすくなっている。その進化の過程が遠く離れた人間にも残っており、ブルーライトの影響を受けやすくなっているのだ。
睡眠に適した気温は、18.3℃である
多くの人が、少し寒すぎるのでは?と驚くかもしれない。もちろん個人によって最適な温度は多少異なるが。さらに言えば、気温が12.5℃を下回らなければ、睡眠の際に特に問題はないそうだ。なぜそのような低い温度が睡眠に適しているのだろうか?
その答えは深部体温を下げることにある。体の深部体温を2,3℃下げると、脳の視床下部がその体温変化を検知し、メラトニンを大量に放出し始める。
寝る前にお風呂に入ったり、シャワーを浴びたりすることは、一旦体温を上昇させて眠りにつきやすくするという誤解はよくされるが、その真の目的は、実は体表面の血管を膨張させることにある。体の表面の血管の表面積を増やすことによって、血液を効率的に冷やし、冷やされた血液が体の内部を循環することによって、深部体温を効果的に低下させるはたらきをする。
睡眠薬は、死の危険を倍増、いや3〜5倍にもする
10000人を対象に、2年半にわたって行われた調査結果によれば、睡眠薬を使用している人は、平均して使用していない人よりも4.6倍死亡率が高いことが分かった。服用頻度別に見ると、年間132錠以上服用している人は、5.3倍。年間18~132錠服用している人は、4.6倍。最後に、一番驚くべき結果として、年間に18錠(たった!)程度服用している人でも、その死亡率は3.6倍に増加していた。
我々は、睡眠に関して何も教えられていない?
著者のMatthew Walker氏は、自身が大学で長年教えている中で、様々な国から来た多様な人々に対してある質問をした。
「あなたは過去、睡眠に関する何らかの教育を受けたことがありますか?」
その答えは、今のところ0%。すべての人から、睡眠に関する教育を受けたことがないという答えが返ってきたそうだ。
最後に、
睡眠は、我々の人生の1/3を占めている。しかしながら、我々は睡眠についてほとんど何も知らない。